天使の協奏曲 第一話
初めての方へ↓
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恐れるな。わたしはあなたとともにいる。
たじろぐな。わたしがあなたの神だから。
わたしはあなたを強め、あなたを助け、
わたしの義の右の手であなたを守る。
(イザヤ書より抜粋)
*第一話*
マンションの屋上。
まだ冷たい春の風が私を突き刺し、心をよりいっそう震えさせる。
今にも雲に隠れて消えそうな月明かりの下で、私はつぶやいた。
「あのフェンスを越えれば、きっと・・・。」
わずかな希望。死の淵へ向かう私の目には、もう闇しか映っていない。
これで・・・これで終わり。これで最期。あそこから飛び降りて、楽に死のう。
棒のような足で一歩一歩踏み出し、フェンスに手をかける。
均一に並ぶ冷たい網目に指を喰いこませ、体を持ち上げた。
あともう一歩踏み出せば、違う世界。
乱れた前髪が、頬をなでる。
私は静かに目をつむった。
「さよなら。」
体がフッと軽くなる。
光またたく闇の世界で、私は微笑んだ。
ああ・・・落ちる・・・落ちる・・・落ちてゆく・・・・・
「・・・あれ?」
唐突に声が出た。
おかしい・・・。なにかおかしい。まさか・・・。
おそるおそる目を開ける。
う、うそ・・・。なんで? 体が・・・。
「浮いてる!?」
思わず私は叫んだ。
うそだ。こんなことあるわけない。私は確かにマンションから飛び降りたはず。なのに・・・空中で止まって・・・浮かんでるなんて!
もうどうしたらいいのかわからない。こんなこと、誰が想像できるというのだ。
そうこうしている間にも、私の体はゆらゆらただよい、風に流されていく。まるで宇宙空間だ。私は一瞬焦り、どうしようかと考えた。しかし、それもすぐにやめた。
そっか・・・。焦る必要なんてない。私は死にに来たんだ。だからもう・・・。
「どうなったっていいや。」
最後の言葉だけ小さく吐き捨てるように言い、私はまた目をつむった。
第一話 完