ダックス! 【小説ブログ】

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天使の協奏曲 第二十話

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天使の協奏曲 第一話

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              *第二十話*

『ご、ごめんね。変なこと言っちゃって・・・。ボク、香織に会うために来たのに、なんか暗い話になっちゃったね・・・。』

 エルの言葉に対し、私は何も答えなかったが、頭の中ではその言葉がなぜか何度も繰り返し流れていた。

  香織に・・・会うために・・・来た・・・香織に・・・会う、ために・・・。会う・・・ために・・・・・・。

  ・・・「会うために」?

 なぜそのフレーズがずっと心の中で反復しているのか、私にはわからなかった。でも、これからどうするのか道が大きく分かれたことはわかる。

 帰るか、このまま黙り続けるか、仕方なく一緒にいるか。

 深夜に起こされて眠い、ということや、面倒くさいという気持ち。このよくわからない感情と昨日感じたことがぶつかりあって混ざり、ぐちゃぐちゃになる。

 やがてそれは「声」となって私の口から飛び出した。

「・・・1時間だけ。」

 エルが「?」という顔をした。私はそのまま続ける。

「1時間・・・だけ、私の時間をあげる。勝手に使っていいから。」

 それは聞いて、エルは最初目をぱちくりさせたが、すぐににっこりした。

 

 それから1時間ほど、私とエルは行動を同じくした。

 エルは私に気を使っているのか、昨日のようにあっちに行こう、こっちに行こう、などとは言わなかった。ただベランダの敷居に並んで座り、星空を見ていた。

 お互い話すことも目線ひとつ合わせることもしなかったが、それでも不思議なくらい穏やかな気持ちだった。

                      第二十話 完

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