天使の協奏曲 第二十三話
初めての方↓
*第二十三話*
確かに・・・。どうして私、こんな体になっちゃったんだろう? こうやってエルと話してると、これが当たり前のような気がしてきちゃうけど、やっぱりおかしいよなあ・・・。
突然けたたましくクラクションが鳴った。はっと顔を上げたその時、ぶつかり合うような凄まじい衝撃が、混沌とした夜の街をつらぬいた。本能的に嫌な予感がした私は、思わず手すりに乗り出して音がした方を見る。そしてそこにあった光景を目の当たりにした瞬間、私は全てを理解した。
交通事故・・・!
鳩が止まっていたトラックとダンプカーが衝突している。車体に走る亀裂と飛び散ったガラス片。お互いのからだにめり込んだ車の部品は折れ曲がり、ひしゃげ、無惨にもその形すら保っていない。
見るも耐えない悲惨な状況だ。
運転手は無事だろうか。いや、五体満足なはずがない。死ぬ確率の方が高いだろう。
そのとき、私の頭にある風景が浮かんだ。暗闇の中、さざ波のように揺れる光。うんざりするほど連なるビルの群れ。私はああ、とつぶやき理解した。
昨日マンションの屋上で自殺しようとしたときに見た景色だ。なぜ今これを思い出すのか、10歳の小さな頭ではわからないが、ただ淡い哀しみだけが私の心にあった。
そっとエルの方を見ると、エルは悲惨な事故現場を見ながら『すごいなあ神様。また奇跡を起こしてる』と口にしていた。
はあ?と思いながらつぶれたトラックを見下ろすと、瓦礫の中ですました顔をしている鳩を見つけた。
・・・? あの鳩、何してるんだろう?
もうわけがわからなくなってきた私を見て、エルがクスッと笑った。『あのね、今、神様が奇跡を起こしたんだよ。』
第二十三話 完