天使の協奏曲 第十九話
初めての方↓
*第十九話*
ベランダの向こう側に立ち、コンコンと窓をたたいていたのは、まさしくあの男の子、エルだった。エルはひときわ目立つその光る体で窓の外からこちらを眺めている。そして私起きたことに気づくと、たちまち笑顔になった。唇が動いているのでなにか言っているようだが、窓で隔たっているためうまく聞き取れない。
仕方なくベランダに近づき窓を開けると、エルはとても嬉しそうに言った。
『やったあ香織が出てきてくれた! ボクの初めての友達!』
翼を上下に動かし、喜ぶエルを見て、私はため息をついた。
「・・・なんの用? わざわざベランダまで来て。」
私のその言葉を聞き、エルはキョトンとした。
『え? 友達って毎日会うのが普通なんじゃないの? ボクらはもう友達なんだから。』
当然のように言うエルを見て、私はさっきより大きなため息をつく。
「だからって、こんな深夜に起こさないで。エルは大丈夫かもしれないけど、私は人間なの。こっちは寝なくちゃいけないの。」
エルに会って眠気なんてふき飛んじゃったけど、とつけ足し、私はエルの顔を見る。すると、さっきまでの笑顔がふっと消え、エルは少し悲しそうな表情をした。
『・・・うん、知ってる・・・。でも、ボクには、どうしようもできないんだ・・・。ボク、夜しかいられないから・・・。』
うつむくエルを見ながら、私はその意味を聞き返した。
『ボク・・・朝になったら消えちゃうんだ。体がだんだん光の粒になっていって、どこかに行っちゃうんだ。それで、太陽が沈みかけたころに、また体が元に戻って動けるようになるんだ。だから、夜しか香織には会えないんだ・・・。』
哀しそうにするエルを見て、私はなにか言おうとしたが、言葉が出てこない。まず、自分が何を言いたいのかもわからないのだ。慰めたいのか、突き放したいのか、悲しみたいのか、苛立ちをぶつけたいのか・・・。
そうやってしばらく黙っていると、エルが先に顔を上げ、言った。
第十九話 完